--年--月--日

Ads by Google

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2008年04月29日

朝顔の種

0429.jpg

イラスト:現栃木県美術作家連盟会長 渡邉 泰秀

我が家の向かい側は横塚児童公園。
近隣の幼児や年配者たちだけでなく、ある日突然、マイクロバスで保育園や
幼稚園の子供達がどっとやってくる。

“みなさん、いただきま〜す”の大合唱の下、みんなお弁当を広げてまるで
チョウチョのように可愛い。
そのあと、ひとしきり静かになり、桜の花の散りゆく先を目で追ったりしていると、
何組かのお母さんが幼児を月山へはいはいさせたり、おじいちゃんが孫の手をひいて
石段を降りてくる。

…みんなこの公園が好きなのだ。
遠くからやってくる人もいるし、実家へくると必ずここへくるという子もいる。


公園を囲む常緑樹は今、芽吹きの時。
堅い葉を落としたその後から湯上がりの赤ちゃんのような薄紅の若芽が枝いっぱいに広がり、
公園の空は柔らかな匂いでいっぱいである。

その若芽の間から、萌ちゃんが石垣をポンと飛び降りて駆けてきた。
“石バー。いつ朝顔の種まくの?”
事務所のドアに首だけ入れて何かちょっと遠慮がち。
“うん?そうだね。5月の連休が終わったら蒔こうか?”
“ハイ” 
萌ちゃんの大きな目がパチパチと動いた。

でもドアの向こうで足踏みしながら、萌ちゃんは今すぐにでも朝顔の種を蒔きたいようである。
“萌ちゃんからもらった種はここにちゃんとしまってあるよ”

私は机上のビニールシートの下から茶色の封筒を取出した。
“あさがおのたね 高山 萌”と大きな字で書いてある。
その下に私の小さな字で19.10.11と書いてある。

そう… この日萌ちゃんは、たった一人でいきなり事務所の私の机の前へ
まっすぐにやって来たのだ。

大きな目を大きく見開いて、大きな声で萌ちゃんは言った。
“あさがおのたねを持ってきました。植えて下さい。”
“ん??” 驚きを隠して私は優しく言った。
“どれ、見せてごらん。”

茶封筒の中には大小さまざまな小石のようなものが10数粒入っている。
“萌ちゃんの朝顔の種なの?”
“そうです…”萌ちゃんは直立のまま緊張した表情である。
“萌ちゃんは何年生?”
“2年生です。”
“そう。すごいね。これ全部萌ちゃんの種なんだ。何色の花だったの?“
“…”
“よし、じゃあ来年、石バーと2人でこの種を蒔こうね。
 軒下にずっと蒔いていって、棒を立てて2Fまで這わそうよ。
 そしたら部屋の温度が7℃も下がるんだって。新聞に書いてあったよ。“

萌ちゃんが直立のまま大きくうなずいた。



それから暑がりやの私は7℃下がるという新聞記事を信じて、萌ちゃんの朝顔を
どうやって2Fに這わせるかをずっと考えて来た。

1. かんぴょう竿2本つないで2Fのベランダまでのばす。
でも、もしつるがその先まで伸びたら?途中で朝顔のつるがブルンブルルン、プッツン!?

2. 大きなプランターを軒下へ並べてそこに種を蒔き、2Fのベランダからネットを垂らす。
ネットの端はプランターの下へおこしめる。でも台風が来てネットごとゆれにゆれて
根っこごとむしり取られ隣近所にプランターごと吹き飛んでいったら…?

猛暑の中汗でベトベトになりながら隣の家の自動車にぶつかっているプランターや
ネットの後片付けをしている自分の姿が浮かぶ…。 
もうそれだけで汗が出そうだ。

小石粒ほどの朝顔の種がやがて巨大化して大輪の花となり、腰痛の私をひきずり回すのだ…!?
いや、…その前にいったい誰に竿を借りようか?
30本もの竿をどうやって自宅へ運ぼうか?
いくら支払ったら良いのか?
竿にしろネットにしろ、その先端を2Fのどの部分にどう固定するのか?
はしごは?ガムテープは?
私はもう考えるだけで疲れてきた。


そしてやっと決めた。
もう7℃涼しくならなくてもいい。

朝顔はパンジーを抜いた後の花壇に蒔こう。
竿もネットも使わないで、咲かせ放題咲かせて這い回り、ひっくり返り、伸びに伸びた朝顔は花壇を通り越して、駐車場はきっと朝顔の海になるだろうよ。

赤や青やむらさきや白のうすい大きな花びらが、朝もやの中にキラキラと光りながら咲き初めて、それはそれは大きな花の海だ。
土の下のダンゴムシやミミズやありんこは、真夏でも摂氏15℃。何しろ海の中だ。

でもクーラーの嫌いな石バーの部屋は灼熱地獄。

萌ちゃん。そしたら又、遊びにおいで。
たまに石バーの部屋で遊ぼうよ。

そして朝顔の海をのぞいてみよう。
きっと涼しくなるかもしれないね。

 BLOG TOP